2020年3月27日 | グローバルCIO スコット・マイナード
グローバル経済が景気後退に陥り、多くのエコノミストが米国の第2四半期国内総生産(GDP)は15%、あるいはそれ以上のマイナス成長と予測する中で、世界は1930年代以降最悪の景気後退に直面している。
ポスト・ケインズ派の時代においては、景気サイクルが下降局面に入った場合に政府が採る標準的な解決策は、需要の低下を財政刺激および金融緩和により一時的に相殺することであった。この処方箋により景気低迷は軽く済むようになり回数も減った。企業と家計は、経済に対するショックの影響は政府が軽減してくれると確信するに至り、それが最終的には企業と家計における債務の増加と現金準備の減少という結果をもたらした。
ポスト・ケインズ派の時代においては、景気サイクルが下降局面に入った場合に政府が採る標準的な解決策は、需要の低下を財政刺激および金融緩和により一時的に相殺することであった。この処方箋により景気低迷は軽く済むようになり回数も減った。企業と家計は、経済に対するショックの影響は政府が軽減してくれると確信するに至り、それが最終的には企業と家計における債務の増加と現金準備の減少という結果をもたらした。
景気低迷のたびに債務残高が増えていくこの過程は、しばしば大規模な債務のスーパーサイクル(信用循環)と呼ばれる。過去数十年にわたりケインズ流の景気安定策が功を奏してきたことから、投資家、債権者共に大規模な景気後退は政府が阻止してくれるとの確信を深めた。
政府が緩和的な金融政策を採り融資が受けやすくなったことから米国の家計には巨額の債務が蓄積され、住宅バブルを引き起こした。そのバブルが崩壊したことによりグローバル金融システムが不安定化し、その解決には非伝統的な金融政策と財政措置以外に打つ手がなかった。これにより多くの金融機関やメーカーが、部分的または完全に国有化された。
危機が終わってみると政府の債務残高は膨れあがっていて、その後も増加を続けた。成長をサポートするために低金利を維持するには、中央銀行が国債を買い続けるしかなかった。2007年には平均で81%であったG7各国のGDPに対する政府債務の比率は、2019年には117%まで上昇した。政府債務あるいはその他の資産が積み上がる速度を抑える、あるいは削減しようと試みても、市場が不安定化し成長が減速してしまうため、すぐに元に戻さざるを得なかった。
今、新型コロナウイルスのパンデミックという外因性ショックに直面する政府・議会は、10年前の金融危機の際に採った解決策に立ち返ろうとしている。大規模な閉鎖・封鎖や移動制限により生じた需要ギャップを解消する施策、そして過去10年間の低金利政策の結果として過剰債務を抱える多くの企業の救済策を同時に模索している。
最終的な政策目標は、パンデミック終了時に雇用を確保する必要がある産業を救済することによる経済の安定化である。こうした業界の企業はレバレッジが高いため、キャッシュフローの流入が不足するとすぐに債務の返済に行き詰まるケースが多い。米国の非金融部門の債務残高は2007年から約6兆ドル増加した一方で、手元資金は1兆7,000億ドルしか増加していない。この債務増加の主な原因は自社株買いである。
こうした企業にさらに資金を貸し付けても過剰なレバレッジに起因する長年の問題を増幅するだけであり、長期的には破綻に対する脆弱性を高めることにしかならない。
今、大規模な債務のスーパーサイクルが終わりを告げようとしている。民間部門の過剰債務が膨らみ続けているため成長けん引というバトンは公的部門に渡されつつあるが、その公的部門もリソースが逼迫して、もはや最後の手段には紙幣の印刷しか残されていない。2019年度の連邦予算の赤字額はGDPの4.6%であったが、これは不況時と戦時中を除けば史上最も高い数字である。
社会主義に転じる以外の唯一の現実的な解決策は、投資家から債務者への巨額の富の移転である。通常は、企業再編の過程で債権者が個々の状況に応じて債権放棄を受け入れる形を取る。しかし、この解決策には時間とコストがかかる。足元の危機は連鎖的な様相を呈しているため、企業再編が次々と発生すればまず金融システムや法律システムが立ち行かなくなる。さらに、企業破綻の増加に伴う資産の売却が増加し、それが正常な融資の担保価値を押し下げるという負のスパイラルに陥る可能性が高まる。
もう1つの解決策はマイナス金利である。この場合、債権者は債権価値の緩やかな目減りを受け入れることになる。しかし、この解決策を迅速かつ効率的に実行することは完全に不可能なように見える。解決策としての効果が出るところまで金利のマイナス幅を拡大させるためには、グローバル社会が直ちにキャッシュレス化するとともに、年金基金や保険業界に対する規制を全面的に見直す必要がある。これら制度改革実行を金融業界全体で直ちに行うことの実務上の困難については言うまでもない。
実は、この問題の解決を可能とする効果実証済みの方法として、当然ながら残されている方法がある。それは、貨幣価値を低下させること、すなわちインフレである。物価上昇の過程で、富は投資家から債務者(注:英語版ではcreditorsとの記載がありますが、debtorsの誤りでした)へと移転する。と言っても多くの人がインフレは死んだとして、この解決策は機能するわけがないとするだろう。しかし、物価水準の押し上げは、それができるかどうかという能力の問題というよりは、やろうとするかどうかというコミットメントの問題である。
各国中央銀行が直ちに紙幣印刷機をフル稼働させて、貨幣流通速度の低下を上回るスピードで資金を供給する必要がある。ただしそのさじ加減は非常に難しく、成功する確率は決して高くない。
迅速に動く必要がある一方でやり過ぎてもいけないという背中合わせのリスクがある。資金供給量が少な過ぎれば、融資の担保として使用されている資産の価値が急落する。資金供給量が多過ぎればインフレが加速し制御不能となる。
およそ8年前、私は政策当局が金融危機解決のために悪魔と交わした契約について書いた。その政策の悲惨な結果として、今そのつけが回ってきているのかもしれない。
この資料は専ら情報の提供を目的としたものであり、いかなる有価証券、投資戦略または投資商品に関して、投資助言または推奨をするものではありません。この資料はフィデューシャリー義務の立場から提供されたものではなく、投資決定を行うための十分な根拠となることを意図したものとみなすべきではありません。また、特定の有価証券の売買に関する勧誘とみなしてはなりません。本資料は、会計、法務または税務上のアドバイスを供与するという考えから頒布するものではありません。これらの問題については、貴社の法律または税務上のアドバイザーに助言を求めてください。
本資料は、著者の意見を含みますが、グッゲンハイム パートナーズまたはその子会社の意見を含むものとは限りません。著者の意見は、予告なく変更することがあります。本資料に含まれる将来にむかっての表明、予測および一定の情報は、自社または他社の調査および他の情報源に基づくものです。本資料に含まれる情報は、信頼に足ると信ずる情報源より取得していますが、その正確性を保証するものではありません。本資料の如何なる部分も、グッゲンハイム パートナーズLLCの書面による明示的同意なしには、如何なる方法であれ、複製し、または引用することはできません。過去のパフォーマンスは、将来の結果を暗示するものではなく、そのような情報に基づく判断につき、現時点における正確性、責任を表明または保証するものではありません。
1ベーシス・ポイントは、0.01%となります。
投資には元本を失う可能性を含むリスクが伴います。確定利付商品への投資は、金利が上昇し価格が落ちる可能性を伴います。ハイイールド債券および無格付債券は、投資適格債券よりもデフォルトリスクが高く、流動性が低いことがあるため、価格変動が高くなる可能性があります。
日本の投資家の皆様への通知事項:本資料で参照された機会、投資又は持分を含む、は、金融商品取引法(昭和二十三年四月十三日法律第二十五号)第一章四項に従って登録されたものではありません。従って、当機会は、日本において、いずれの日本人の利益のため、又は日本において又は日本人に対し直接的又は間接的に転売を行おうとする他者に対して、直接的または間接的に申し込み又は売却をするものではありません。ただし、日本政府および規制当局によって発布され、実施されているすべての該当する法律、規制、および指針に遵守する場合にはその限りではありません。ここでいう日本人とは、日本における居住者を指し、企業又は日本法の下で設立されたその他の機関を含みます。
グッゲンハイム インベストメンツは、下記の関係会社による投資運用業務の総称です。Guggenheim Partners Investment Management, LLC、 Security Investors, LLC、 Guggenheim Funds Investment Advisors, LLC、 Guggenheim Funds Distributors, LLC、 GS GAMMA Advisors, LLC、 Guggenheim Partners Europe LimitedおよびGuggenheim Partners India Management.
©2020, グッゲンハイム パートナーズLLC。グッゲンハイム パートナーズ LLC による明示的な書面による許可なく、本文書のいかなる部分についても、いかなる形式における再作成および他の出版物における引用を禁じます。