必要だが十分ではない

FRB（米連邦準備制度理事会）がとった措置についてどう思うか？

• この時点までにFRBがとった措置は、必要だが十分でないと考えている。
• 例を挙げると、コマーシャルペーパー（CP）資金供給ファシリティ（CPFF）では「A1/P1」格付のCPを買い入れている。「A1/P1」格のCPは約4,500億米ドルあるが、FRBが購入できない「A2/P2」格のCPは約5,000億米ドルにのぼる。
• 「A2/P2」格付のCPは、より脆弱で、実際に事業継続のための支援が必要となる企業によって発行されている。
• 「A1/P1」発行企業をバックアップするということでCPファシリティが存在するのは喜ばしいとは思うが、マネーマーケットから遮断されている最も脆弱な企業のためには全くならない。
• 確かにFRBは、特に金融危機後により多くの規制が盛り込まれたドッド=フランク法によって両手を縛られてしまっている。
• 議会権限により、FRBは、地方債や社債、株式をバランスシート上で直接買い入れることができない。ホワイトハウスが主導してFRBにその権限を与えない限り、FRBが購入できるのは米国債、エージェンシー債、そして金のみである。

市場では次に何が起こるか？

• 社債のスプレッドが大幅に拡大している。
• しかし、証券化などの分野ではまだセリングクライマックス（投げ売り）的な売りは見られない。マーケットには大量の航空機リース証券化商品が存在しており、今後、航空会社の飛行停止によって深刻な打撃を受けることになる。私は今般初めて、案件における強制売却事由が幾つか発生するのではとの感触をもっているが、実際それが起こるまで底を打つことにはならないだろう。
• 2015～16年のミニ・リセッションでは、BBB格のCLOが額面1ドル当たり60セントで取引されていた。私が確認した直近の取引は、1ドル当たり85セント前後だった。現状は、2015～16年に経験したエネルギー価格の下落とそれが引き起こしたクレジット・クランチ（信用収縮）の状況よりも、はるかに深刻だと考えている。
• これらのCLOの取引価格が額面1ドル当たり50セントに近づくのが妥当だと考えている。航空機リース証券化商品は、利回り7％前後で取引されているが、私見では、利回り15％の相場がより適切だと考えている。
• 株式市場についてはまだ下値の余地があると考えている。株式市場は全面的なパニックになっているが、私が想定している次の節目、すなわちS&P 500種指数で2,100～2,200前後に達しても、37％の下落にすぎない。それは現状のようなマーケットで予想される下落幅とはいえず、45～50％程度を見込むのが一般的だろう。

今回の経済危機によって最も打撃を受ける産業の今後は？

• 上場航空会社は、米国では大きな政治的論争になるだろう。
• 金融危機後の過去10年間、航空会社は450億米ドル相当の自社株買戻しを行ってきた。現在、航空業界は約500億米ドルの救済措置を求めている。これは政治的悪夢になりかねない。
• 金融危機の際に大企業の救済に反対した人々は、今回の救済について、「どうしてこれらの企業を単純に破たんさせないのか」と言うだろう。
• 現実的には「チャプターイレブン（米連邦破産法11条）」に基づく再編により、航空会社は営業を継続することになる。人々は目的地まで飛行機で向かうことができなくなるわけではない。
• 私は資本主義者を自認している。現状では、リスクをとってリターンを得ている企業に実際にリスクを負わせるべきで、政府に救済させるべきではない。
• これは、1930年代以来、金融システムの中で積み上がってきたモラルハザードの問題である。
• 私は米国財務省と行政管理予算局に提案を行ったが、その内容は、本当にボーイングのように、ある産業やある企業が米国経済にとってきわめて重要であると考えるのなら、債務保証は行ってもよいが、債務者（救済を受けるローンを借りている企業）はそのための保証料を支払う必要があるということである。商業銀行からL/C（信用状）を得るのと同様の支払いを行うべきである。
• また、政府はその企業の株式の、例えば20％分のワラントを取得すべきである。米国政府はディストレスト投資家として交渉の席につき、今回の危機の負担を負うことになる納税者が、アップサイドに加われる取引を構築する必要がある。

提案された緊急対策は債券市場にどのように影響するか？

• 債券市場では長期的な構造変化が生じよう。
• 米財務省は年間約1兆2,000億米ドルの証券を発行している。昨年の国内貯蓄額は約1兆2,000億米ドルで、法人貯蓄額は約5,000億米ドル、国と地方政府は3,000億～4,000億米ドルの赤字だった。つまり、米国貯蓄の方程式はバランスしていた。
• それが今、1兆米ドルの緊急対策により、政府債務は2兆2,000億米ドルになる。法人貯蓄は蒸発し、個人貯蓄率は、家計維持などに預貯金を使うことになるため、良くなりようがない。国と地方政府は支出を続けるか、支出を増やさなければならなくなる。
• 帳尻が合わないため、金融システムで利用可能な信用額が1兆米ドル以上不足し、FRBは増える需要と信用供給をバランスさせるため、信用を提供せざるを得なくなる。
• 最終的にこれはQE5（量的緩和第5弾）となり、私は、4兆5,000億米ドル前後の量的緩和が実施されるとみている。
• そうでなければ、企業経営に利用可能なこの信用枠の不足分が増え、危機はさらに深刻になるだろう。

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