2020年1月20日 | グローバルCIO スコット・マイナード
ダボスで注目するトピックスの一つは、社債市場の質の悪化である。
気掛かりな傾向がある。J.P.モルガンがまとめたデータによると、昨年のリスク資産の価格上昇にもかかわらず、デフォルト件数が約50%増加した。また、ディストレスト・エクスチェンジ(経営難に伴う債務交換)の件数も400%増となった。
これは各企業の固有の要因によるデフォルト(idiosyncratic default)が増えているとする弊社見解とかなり相関する。最終的には、米国債に対する債券スプレッドの拡大によって、市場はこうしたリスクの高まりを再び織り込む必要があるだろう。しかし、中央銀行による大量の流動性供給と外国人投資家がマイナス利回りを避けて海外へ逃げ出すことによって、スプレッドの拡大が進まないと、その報いを受ける日が来るだろう。
また、BBB格債の格下げリスクを忘れてはならない。現在、投資適格債市場の50%がBBB格債だが、2007年は35%だった。より詳しく見ると、2007年には投資適格債市場の約8%がBBB-格債であったが、現在は15%である。発行残高は8,000億ドルから3兆3,000億ドルへと4倍超となった。次の格下げの波が押し寄せれば、BBB格債の15~20%がハイイールド債に格下げされると見込まれる。これは5,000億~6,600億ドルに相当し、史上最大の格下げ規模となるだろう。そして、フォールンエンジェル(投資適格から非投資適格に格下げされた債券)がハイイールド債市場に雪崩れ込むだろう。
結局のところ、投資家がデフォルトと格下げの増加傾向に気付くと、転換点に達する。その時期を予測するのは難しいが、こうした状況は2001~2002年の景気後退に至る期間のことをいろいろと思い起させる。
1990年代末にタイトなクレジットスプレッドを長期間経験したことから、投資家はポートフォリオの質を高めるべき時期に図らずもリスクを高める結果となった。
これはエコノミストのハイマン・ミンスキー氏の有名な見解を思い出させる。同氏は「安定性が本質的に不安定性を生み出す」と説いた。すなわち、リスク資産価格が長期間にわたって比較的安定していると、投資家は平穏が長く続く間中、リスクを高め続けるということである。
最終的に、これは同氏がポンジ市場(Ponzi Market: 実態なき資産価格の上げ相場)と呼ぶ状況につながる。ポンジ市場で投資家がリスクを高め続ける理由はただ一つ、明日は値上がりする(債券の場合、明日は利回りが下がる)という不安感からである。
ダニエル・カーネマン氏は自身の研究でこうした行動を観察し、機会を逃すことに対する投資家不安が、売るべき時に買うという行動に向かわせることを確認した。
景気後退は明らかに2021年か場合によっては2022年まで後ずれすることになったが、2001年の景気後退に至る期間には、デフォルトの増加とクレジットスプレッドの拡大が生じ、クレジットの悪化が3年前の1998年から見られるようになった。
これは利回りに飢えている投資家にとっては好材料のように聞こえ、私も同感である。
しかし、エキゾチックな資産クラスに迷い込むことも、足元の利回りを追うこともない規律ある投資家にとっては、忍耐強さがより大きな投資機会につながるだろう。
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