2020年7月27日 | グローバルCIO スコット・マイナード
コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)に対する米国の対応とその結果としての経済崩壊は規模とスピードにおいて際立っており、2008年の世界金融危機への対応策が小さく見える。コロナウイルス支援・救済・経済保障法(CARES法)の規定やその他対策はおおむね、経済的ショックは大きいが長引くことはないと想定して策定された。政策支援は一時的なつなぎ措置として状況が再び正常化に向かう中で数カ月間続ける主旨のものであった。
その後、一時解雇が増えており、多くの中小企業が倒産の危機に瀕していることから、追加の財政支援が必要である。新たな経済対策によって雇用促進策を再考し、できるだけ多くの人々を仕事に復帰させる機会を提供するものとする。経済活動の再開に伴い、需要が高まり、企業は労働者を呼び戻す必要性が高まるはずである。労働者が再び労働力人口に加わるよう促すとともに、賃金の引き下げや労働時間の短縮あるいはその両方を強いられて働いている人々を支援する政策が必要である。
任意型の給与税減税は、可処分所得を増やし勤労意欲を高める上で極めて重要な役割を果たし得る。共和党議員はこの案に抵抗しているが、それは間違いである。正しい仕組みを作れば、給与税減税は社会保障をより持続可能なものにすることにもなる。給与税の源泉税率は従業員部分で現在6.2%だが、これを最初の2年間ゼロに引き下げれば、給与税減税を選択した労働者は切望する収入増加を実現できる。源泉税率はその後徐々に引き上げられ、7年目に6.2%に戻るとする案。
これは既存労働者の可処分所得を増やし、それによって消費を刺激し、さらなる雇用を促す好循環も引き起こすだろう。このようなプログラムでは、平均賃金(2019年で53,756ドル)を稼ぐ40歳の平均的な労働者は、向こう6年間の可処分所得が15,767ドル増加することになる。
供給側の雇用増加インセンティブとして、雇用主も同様の減税を受けることができる。CARES法では、雇用主は2020年の給与税の繰り延べが認められている。無条件の免税とすれば、さらに大きな景気浮揚をもたらすだろう。 税引後の人件費を抑えることによって、企業は労働者を雇用・維持する直接的なインセンティブを得ることになる。その結果、記録的な雇用増加がさらに更新され、失業率が比較的速やかに低下するだろう。また、雇用主の給与税減免は中小企業にかかる重圧を軽減し、経済構造のポテンシャルを脅かす倒産や破産の発生を抑えることにもなる。
こうした一時的な給与税減税は、減税を選択した人の退職年齢を引き上げることによって埋め合わせることができる。例えば、現在67歳としている通常退職年齢を、78歳に達するか退職するか、いずれか早い方を上限として、毎年6カ月ずつ引き上げることを可能とする。社会保障局によると、社会保障年金信託基金の今後75年間の積立不足債務の正味現在価値は16兆8,000億ドルである。現在の労働者の加重平均の退職年齢引き上げ選択率を66%と想定すると、この制度改正により、今後60年間に当該不足額のうち14兆1,000億ドルが解消されることになる。また、今後15年間に約3,600万人が労働力人口に新たに加われば、不足額がさらに4兆ドル減るだろう。
収入を今得たいと思う人については、退職を遅らせる代わりに現在の手取り給与を増やすことができる。これは退職予定日が何十年も先である若年労働者にとって魅力的かもしれない。 働く人々を助けることによって、消費者の懐に入るお金が増え、その結果、総需要が押し上げられる。給与税減税には累進性があり、6.2%の給与税は個人所得の最初の137,700ドルにのみ課されるので、手取り給与の相対的増加幅が最も大きくなるのは低所得労働者であり、まさに現在最も支援を必要とし増収分を最も消費しそうな人々である。
強制的な制度改正とは違って、給与税減税を選択する労働者は退職年齢の引き上げと引き換えに自ら進んで選択する。現行の退職給付を保持することを希望する人は現行プログラムにとどまるだろう。こうすることで労働者が自らの退職をカスタマイズする自由度と柔軟性が高まることになる。
給与税減税は雇用を促進させる有用なインセンティブであるとともに、エンタイトルメント(社会保障受給権制度)を改革し将来の世代の社会保障を補強する機会も作る。言うまでもなく、こうした提案はもっと大きな財政刺激策の一つの要素にすぎず、またそうでなければならない。こうした施策は公衆衛生政策の継続的な推進と金融政策からの支援によって補完されるべきである。私たちはこの機会を捉え、金融の安定と経済成長を促進させながら米国の雇用を回復させるプログラムを策定しなければならないと考える。
スタンフォード大学経済学教授で、フーバー研究所フェローのジョン・ブライアン・テイラー氏にも本稿執筆にお力添えいただきました。
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